+クローディア+



 君との出会いはまるで必然。
 最初は信じたくも無かったけれど、今は会えて良かったと思ってる。
 君がいたからわたしは変われたんだ。


 ユーティリエッド。都市開発が途中で行き詰りを見せた街。
 昼は人で賑わいを見せても、夜が更ければ人通りは殆ど無く不気味な雰囲気に包まれる事さえある。
 空気が冷たい。この街の夜は静寂すぎる。まるで血の滴りの音さえも暗闇の中へと吸い込まれてしまいそう。
「くそ、油断したな……」
 血塗られた白服の左肩、深く抉られた傷を押さえて歩く。色素の薄い肌に薄っすらと汗を浮かべ、頬には金の髪が張り付いている。
 香佑華は軽く眩暈を覚えながら裏通りに入る。しかしそこで足が止まった。
 目の前に自分を待っていたかのように佇む自分の胸辺りまでしかない黒髪の少年。
 にこりともせず香佑華を見つめる少年の手には古い型の拳銃が握られていた。
「お前…、あそこの孤児院にいた奴じゃ?」
 その顔には見覚えがあった。一度だけ裏事情で孤児院の理事長を訪ねた折に一度だけ会っている。
「それでわたしを殺すのか?」
 ヴァンパイアの自分をそんな銃で殺せるか?と聞いてみても少年は答えない。
 ただ黙って香佑華の方を見ているだけだ。
「それとも、わたしに殺されたいのか?」
 それには首を振ってみせた。そしてゆっくりと口を開く。
「あんたを動けないようにしたら、あんたは俺のものになるのかな」
 何を言われたのか、一瞬理解できなかった。
「お前、今なんて…?」
 問いには答えず、少年は慣れない銃を構え足元を狙って撃ってくる。
 肩の傷を庇いながらそれを避け、少年との間合いをつめる。
 冗談じゃなかった。何が悲しくてこんなチビのモノにならなければならないのか。
 気高きヴァンパイアの血を引く自分が跪く者などあってはならないのだ。
「阿呆。誰がお前のような餓鬼のものになるか」
 ピン、と人差し指で少年の額を小突く。たったそれだけの事だというのに、少年の体は傾き尻餅をつく。
 落ちた銃を拾おうとする少年の手を踏みつけ、冷たく見据える。
「餓鬼、わたしは今機嫌が悪いんだ。殺される前に消えろ」
 しかし少年は頷かなかった。怯えた様子さえ見せない、というより表情が動かない。
「ねぇ、俺のものになってよ。初めて見たときからあんたの事、好きなんだ」
 なんて単純な理由。呆れるほど子供染みている。
「私に好きになって欲しいというのなら、それなりの努力をすることだ。
 ただし…努力したからといってわたしがお前を好きになるとは限らないがな……」
 どうせ無理に決まってる、そう思いながらもそれだけ言い残して、奥の道を進んでいく。
 どうやら少年は追ってくる気はないらしい。
「変な餓鬼…」
 爪を噛みながら小さく呟く。



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